心が壊れた後のこと ―再出向の打診―

出向先(=修羅部署)から戻って、1年ほどが過ぎていました。

当時は上司(=海外上司)のもとで働いていて、仕事にも少しずつ慣れ、
以前より落ち着いて働けるようになっていました。

そんなある日、海外上司から「少し時間あるかな」と声をかけられました。

席は前後だったので、普段ならその場で話をすることがほとんどでしたが、
その日は会議室でした。

何かあるなと思いました。

修羅部署の先輩(=しごでき先輩)が、
1か月の休暇を取ることになったそうです。

私が修羅部署から戻ったあと、別の人が出向していましたが、
一人では対応が難しく、一時的に代わりの人を出向させてほしい、
ということでした。

ただ、この時点で誰が行くのかは、決まっていたと思います。

修羅部署の業務は慣れや経験が必要で、
何も知らない人が行ってもすぐに対応できるようなものではない。
私自身もそう思っていましたし、
修羅部署を知っている人であれば同じ考えだったと思います。


海外上司からの話は、

・出向期間は1か月であること
・「誰か」と言われているが、実質的には私しかいないこと
・今のプロジェクトに専念させたい(出向させたくない)こと
・それでも部署の状況を考えると、私にお願いせざるを得ないこと、でした。

そして私が以前、修羅部署で心を壊して帰ってきていたことに対しても、
考えてくれていました。

業務する席は、以前の修羅部署の席ではなく、近くの別室に席があるので、
そこで仕事ができるようにする、という提案でした。

話を一通り聞きましたが、最初に出向した時とは違い、
不信感はほとんどありませんでした。

何より海外上司を尊敬していましたし、信頼もしていました。

この場で返事を聞かれはしませんでしたが、
すでに断るという選択肢は自分の中にはありませんでした。


その後、部長(=押付部長)を含めた3人で話をすることになりました。

おそらく押付部長は、事前に私と海外上司が話をしていたことを、
知らなかったと思います。

押付部長はどこか半ば冗談のような調子で話を始めました。
以前の出来事に対する謝罪のようなものは特になく、
軽いというほどではないものの、話の節々に笑いを混ぜながら進むような、
そんな空気でした。

一通り話した後、

「それで、1か月だけ行ってほしいんだけど」

私は、この場で返事をしないといけないのか、
どう返事をしよう。
返事は決まっていたものの、一瞬身構えました。

すると、私が話すより先に海外上司が割って入りました。

「急に再出向の話をしてきたけど、こっちも(=海外上司)、
ぜん(=私)の対応を想定して、仕事を進めている。」

「ぜんが抜けることで、こちらの仕事にも影響が出る。
そのことも含めて考えているのか。」

押付部長へ投げかけました。

文章だけを見ると、
自分のプロジェクトの損得を話しているように見えるかもしれません。

でも、私はそうは感じませんでした。

私が体を壊したから行かせたくない、ではなく、
一人の仕事人として見てくれているように感じました。

それが嬉しかったのを覚えています。

押付部長も、代わりが私しかいないことは分かっていました。

だから反対することもできず、
出向によって影響が出ることについても、

「仕方ない」

という返事でした。

積極的に賛成というよりは、渋々受け入れているような感じでした。

そして最後に海外上司が確認しました。

「1か月で終わるんだな?」

という確認でした。

最初に出向した時、私は期間について確認しました。

その時の押付部長からの返事は、「一人前になるまで」
という曖昧なものでした。

ですが、今回は違いました。
押付部長は海外上司の前で、

「1か月だけ」

とはっきり答えました。

その言葉は、私が再出向を受ける後押しになったと思います。

「この話は持ち帰って返事をする。」

海外上司がそう言って、私に返事を求めることはなく、
この場は終わりました。


その後、改めて海外上司と話をしました。

「断ることができなくて、申し訳ない」

そう言われました。

ですが私の心は決まっていたので、再出向を受けることを伝えました。

そして、別室で働くという提案についても自分の考えを伝えました。

出向していた経験上、別室では仕事のパフォーマンスが落ちます。

だから私は、

行く以上は仕事のパフォーマンスを落としたくない、
別室ではなく、修羅部署の元いた席で業務を行うことを伝えました。

もちろん怖さはありました。

当時の記憶がよみがえること。
心を壊して帰った人間として見られること。
そういった不安もありました。

それでも、行く以上しっかりと仕事をしたい、
そんな気持ちの方が強かったです。


これ以降も、押付部長と話をすることはありませんでした。

出向の条件も含めて、海外上司から押付部長へ伝えてくれました。

そして2週間後、
期間限定ではありましたが、私は再び修羅部署へ行くことになりました。

正直、不安がなかったわけではありません。
それでも、行くと決めた以上はしっかりと仕事をしたい。

そんな思いで再び修羅部署へ向かうことになりました。